誰に対しても、びっくりすとほど情熱を傾けて話した。つねに相手を理解しようとし、それ以上に相手に理解されたがっていた。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) June 30, 2013
『信じられないわ』
私がついつぶやくと、インターフォンの向こうで声が笑った。リラックスした、楽しそうな声。
『信じるべきだよ』
玄関にとびだすと、崇が立っていた。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) June 26, 2013
『私が怠惰でも、マーヴは許してくれるわ』
傘をたたみ、バスのステップをのぼりながら私は言った。雨の日の、バスの中の空気。
『誰かに許してもらう必要があるの?』
アンジェラが言い、私は返事をしなかった。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) June 26, 2013
会えてよかったよ、と、順正は言った。愛してる、と言うのとそっくりの響きで。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) March 1, 2013
遠い日、絵画に対するこのひとの情熱やひたむきさに、私は半ば愛を半ば嫉妬を、そしてたぶん淋しさをおぼえた。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) March 1, 2013
言葉は記号のようだった。記号だからこそ、あんなに気安く口から滑りでたのだ。大切なことは何一つ言いだせないままに。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) March 1, 2013
『アオイ』
フェデリカの部屋は不思議だ。部屋全体がフェデリカのよう。
『はい?』
煙草をはさんだ指先には、きょうもご主人に贈られた猫目石の指輪がはめられている。
『人の居場所なんてね、誰かの胸の中にしかないのよ』
フェデリカは、私の顔をみずにそう言った。半ばひとりごとのように。— 24601 (@feelthewind52) February 27, 2013
部屋の中でもきちんとヒールのある靴をはき、膝を揃えて腰掛けるフィデリカ。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 27, 2013
眠れない夜、私は、人恋しさと愛情とを混同してしまわないように、細心の注意を払って物事を考えなければならない。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 27, 2013
夜がくるたびに、一人のベットのはてしなさにぞっとする。マーヴの肌や匂いや、体温や寝息に焦がれている。誰かと暮らすということ、誰かがいつもそばにいてくれるといること。(中略)誰かと生活を共にすることの安心も温度もわずらわしさも、私はマーヴに教わった。 江國香織「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 27, 2013
『受賞そのものより、あんなふうにみんなに祝福されたことが嬉しいよ』
アルベルトはいった。
『人生が幸福なものに思える』
とも。そして、その言葉は、なぜだか私をひどく孤独にした。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
店にいるあいだは、すくなくともすることがあるので落ち着く。仕事は精神状態を安定させてくれる。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
ただ、順正と話がしたかった。私の言葉は順正にしか通じない。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
傷つくと攻撃的になるのは男の人の性質なのだろうか。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
私たちのあいだに初めからある種のディスコミュニケーションがあって、たぶんどちらもそれを拠りどころにしているようなところがあった。臆病な者どうしなのだろう。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
いまならもっと上手く言えるだろうか。(中略)一人ぼっちだったと。子供のころからそうだったのだと。順正だけがそれをわかってくれたと。片時も離れたくなかったと。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
あおい。
たったその一言で、順正の声がよみがえる。順正は、順正にしかできないやり方で、いつもその名前を発音した。あらゆる言葉を。誠実に、愛情をこめて。
私は彼にその名前を呼ばれるのが好きだった。
あおい。
ごくわずかに躊躇して、やさしい声で呼んだ。その声の温度が好きだった。— 24601 (@feelthewind52) February 24, 2013
『一緒にはいる?』
お湯がたまると私は訊いたが、マーヴはジムでシャワーを浴びたからいいとこたえた。マーヴがそうこたえることを、私は知っていて訊いたのだと思った。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 23, 2013
いや、とこたえたマーヴのきっぱりした口調に、私はかすかないらだちを覚える。甘やかされることへのいらだち、許されていることへのいらだち、そして、傷つかれていることへのいらだちだ。私はマーヴを恒常的に傷つけている。 江國香織 「冷静と情熱あいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 23, 2013
野原のようにひろびろとした、屈託のない表情で笑う人だった。野原のように繊細な、それでいて心のどこかに野蛮なものを抱えた人だった。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 23, 2013
自分では妊娠をよろこべなかったくせに、順正がよろこんでくれないと思うことが怖かった。堕ろしてほしい。順正の口からその言葉をきくことには耐えられなかった。どうしてそんなことをした。そう言われるほうが百万倍もましだった。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 21, 2013
許してほしいとはいわない。あやまりたかっただけだ。
ただ一つだけいわせてもらえるなら、どうして全てを話してくれなかったんだろうかと思う。それだけがすこしさびしいよ。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 21, 2013
前向きなひとだった。タフなのか繊細なのかわからない、でもともかくエネルギーに溢れたひとだった。ロマンティストだった。私にないものばかり持っていた。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 21, 2013
選択の余地がないことの過酷さとやすらかさに、私はときどきとても憧れる。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 21, 2013
世界は私の外側で動いていく。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 20, 2013
順正の笑顔は、いつも野原みたいに安心だった。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 20, 2013
マーヴとの生活は過不足がない。しずかで穏やかで、みちたりている。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 20, 2013
私は恋人の姉を好きだなと思う。彼女の健康と不健康を、やさしさと身勝手を、勤勉と怠惰を、好きだなと思う。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 20, 2013
アンジェラは、旅の相手として申し分なかった。適度に精力的で、適度に倦んでいて。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 20, 2013
『元気で』ゆうべ玄関で崇はそう言った。私をかるく抱きしめて、感じのいい笑顔で。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 20, 2013
『たのしかったんだね』
マーヴが言い、その言葉があまりにも自然な愛情にみちていたので、私はふいに淋しくなった。
『たのしかったわ』
淋しさをうちけすようにこたえた。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 16, 2013
順正はすこしもじっとしていない。(中略)順正は動詞の宝庫だった。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 16, 2013
私はそれを一つずつ読んで、ときどき鼻先にもっていって匂いをかいでみる。コルクはもうワインの香りをとめてはいず、ただ乾いた、やさしい匂いがするだけだ。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 16, 2013
そして、話しすぎるとふいに黙ることがあった。言葉では届かないとでもいうように、いきなり私を抱きすくめるのだった。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 16, 2013
私たちはずっとお互いを探し続けていたと確信してしまったし、孤独だったねと言いあいもした。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 16, 2013
世界最大のワニ死ぬ http://t.co/mK7AL3UN ワニってこんなにデカイんだ。
— 24601 (@feelthewind52) February 13, 2013
翌日の朝食はアンジェラがつくってくれた。あかるい黄色の、やわらかなオムレツ。もっとも、朝は食欲がないと言って本人は食べない。やつれた横顔でコーヒーをのんでいる。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 11, 2013
おいで、と、順正は言ってくれたのに。おいで、と、採掘したばかりの天然石のような純粋さと強引さ、やさしさと乱暴さで。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 11, 2013
あなたみたいにクレバーなひとは、愛してるから結婚しようなんていう馬鹿げたことは考えないのよね、きっと。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 11, 2013
『じゃあ、一緒に住む?』
私がそう言うと、マーヴはすこしだけ黙り、それから傷ついたような声で、
『僕がそうしたいと言ったから?』
と訊いた。
『アオイの気持ちを訊いているんだ』
『真面目なのね(you are too serious)』
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 11, 2013
夕方マーヴがオフィスから電話をくれた。雨だからご機嫌うかがい、と言ってわらう。
『甘やかさないで』
窓から雨をみながら私は言った。
『甘やかすとつけあがるわよ』
マーヴはいつもやさしい。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 11, 2013
私はほんのすこし用心深くなっただけだ。ほんのすこし用心深く、それからたぶん、怠惰に。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 10, 2013
本当に日々は淀なくながれる。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 10, 2013
フェデリカの抱擁は軽く、彼女の手のひらの触れたところは、不思議なほどいつまでもその感触が残っている。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 10, 2013
仕事は、春の日の動物園のようだ。楽ちんですこし淋しい。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 10, 2013
大丈夫、と言ったマーヴの声はあいかわらずゆるぎなくて、私はふいに、苦しく欲望をかきたてられてしまう。
『マーヴ』
きてくれてありがとう、と、私は言った。
『どういたしまして』
じっとすわって前をむいたまま、私は雨を眺めているふりをする。
江國香織 「冷静と情熱のあいだ」— 24601 (@feelthewind52) February 9, 2013
夕食のあと、食器をゆすいでいると、マーヴが私の髪に鼻をうめにきた。私はそうやってうしろから抱きしめられるのが苦手だ。安心してしまいそうになる。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) February 9, 2013
私たちはつっ立っていた。ティーンエイジャーのように途方に暮れて。ふるえるような歓喜と、絶望的な不安とのはざまで。ローザとアズーロの、まざりあう空の下で。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 16, 2011
ひどく高揚していたが、同時にとても冷静だった。自分のしてることを理解していた。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 16, 2011
人の居場所なんてね、誰かの胸の中にしかないのよ。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 16, 2011
眠れない夜、私は、人恋しさと愛情とを混同してしまわないように、細心の注意を払って物事を考えなければならない。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 16, 2011
私たちのあいだに初めからある種のディスコミュニケイションがあって、たぶんどちらもそれを拠りどころにしているようなところがあった。臆病な者どうしなのだろう。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 16, 2011
許してほしいとはいわない。あやまりたかっただけだ。ただ一つだけいわせてもらえるなら、どうして全てを話してくれなかったんだろうかと思う。それだけがすごくさびしいよ。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 16, 2011
選択の余地がないということの苛酷さとやすらかさに、私はときどきとても憧れる。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 13, 2011
私は恋人の姉を好きだなと思う。彼女の健康と不健康と、やさしさと身勝手を、勤勉と怠惰を、好きだなと思う。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 13, 2011
アンジェラは、旅の相手として申し分なかった。適度に精力的で、適度に倦んでいて。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 13, 2011
こういう日のマーヴはかならず私を抱こうとする。まるで、そうすることでしか私をたしかめられないかのように。 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 11, 2011
『会いたいな 'I miss her'』『誰に?』『二十六のアオイに』マーヴは私の頭のてっぺんに唇をつけて言う。『愛してたんだ、すごく』 江國香織 「冷静と情熱のあいだ」
— 24601 (@feelthewind52) May 11, 2011
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